いやはや夏本番で暑い。僕は夏大好き男なのですが、寄る年波には勝てず、昨今はやはりバテます。なんともはや。
さて、暑い中、奈良に出かけてきました。
奈良国立博物館の「国宝・法隆寺金堂展」。チケットを入手したのはもう先月のことだったんですが、なかなか足を運ぶことが出来ず、最終日にあたる7月21日、ようやく朝から時間をとって行くことが出来ました。ギリギリセーフ、というやつでしょうか。これやっぱり見逃せないですよね。
同じ関西とはいえ、僕の住むのは兵庫県。観覧者多数の場合は入場制限もある、と聞いていましたので、早朝から出かけました。阪神、JR、近鉄と乗り継いで、午前9時前には近鉄奈良駅に到着。そこから歩いて、興福寺を通り抜けると博物館に着きます。着きましたら、もう長蛇の列が出来ていましたね。最終日でもありますし覚悟はしていましたが。それでも、待たされることもなく入場出来たのは幸いでした。
入場して館内の冷房にホッとする間もなく、人の塊に押し出されるようにして特別展室に入ります。この日展示されているのは、日本最古の四天王と呼ばれる法隆寺金堂の持国天・多聞天・増長天・広目天。そしてあの釈迦三尊像と薬師如来像の台座、天蓋、阿弥陀三尊像、さらに金堂外陣の壁画などです。いやもう人、人、人。なかなかゆっくりと観ることなど叶いませんが、それでもずうずうしく拝観してまいりました。
部屋をぐるりと取り囲むように展示されている金堂壁画は、もちろん再現されたものです(昭和24年に焼失している)。しかし、安田靫彦や前田青邨、若き日の平山郁夫などによって甦った壁画は、もうその迫力に圧倒されます。本物でないのは確かに惜しいことですが、よくぞあの時代にここまで復興させたものです。
僕は得意のウンチクを女房にツラツラと喋っては嫌がられていたのですが、
「これは薬師さんの像やから、横にいるんは日光・月光菩薩や。他にいるのは、全部やないやろけど十二神将やろな。伐折羅大将とか。そんでもここに居るのは金剛力士やろ」
などと言っていますと、後ろから「ほー」と言う声が聞こえてきます。これはヤバい。周りに居る人も聞いているのです。これはうかつなことなど言えない、と少しウンチクを控えるようにしました。こちとら専門家じゃないんだ。ヘタなこと言うと恥をかく。
実際、まわりの話し声はよく聞こえるのです。僕の前方に居た人は、
「この仏さんが持ってるのは楽器らしいよ。どうやって鳴らすんだろう。多分振って鳴らす古代の楽器なんだろうな」
などと大声で言っています。おいおい薬師如来が楽器なんてもってるはずがないぞ、と説明書きを見ますと「薬器」と書いてある。ああこの人読み間違えてる、と気がつきましたが、それはあんた違うよ、などと言うわけにもいきません。カミさんに「笑うな」とだけ言って、ウズウズしながら僕はその場を離れました。
しかし、復元とはいえこう間近に壁画を見ていますと、描かれた当初はどんなもんだったのだろう、と想像が膨らみます。とにかく、見るからにインド風ですから。もっともよくその姿を残す阿弥陀浄土図において、下部にかなり当時の色彩を残す部分がありますが、なんとも煌びやかです。様式的な特徴は唐式で敦煌壁画などとの類似点が言われていますが、僕のような素人が見ますとやっぱりアジャンタの壁画みたいです。いずれにせよ、当時の仏教美術は舶来物の意識が強かったのではないでしょうか。
さて、四天王です。これも法隆寺金堂でいつも見ているものですが、なんせあそこは暗い。こうしてライトを照らしてくれているのは有難いです。別々に外に出てきて拝観したことは僕もあるのですが、四体いっぺんというのはそう機会があるものではありません。じっくりと拝観。
この四天王は後世のものより実におとなしいんですね。四天王と言えば、邪鬼を踏みつけ見得を切る、という印象が強いのですが、この四天王は静のイメージなんです。踏みつけられる邪鬼も(この邪鬼はなんというかおっぱいがふくよかなので女性か、と思っちゃうのですが)、完全に台と化して、その表情はどちらかといえば南方ポリネシアのイメージがある。バリ島にいそうな風貌なんですけれども、やはり静か。
そう思っていたのですが、この展示では、広目天の尊顔の赤外線写真があったのです。それを見てちょっと驚きましたね。実に険しい顔をしている。昔見た吉備真備の肖像によく似ている。ははーなるほどと思いましたね。
仏像というものは、昔は極彩色に彩られていたもんなんです。この四天王の背中あたりにも少し色が残っている。なので、その表情というものは、後世の色が剥落したものばかり見ている現代人の僕らには誤解を生みやすい。この四天王も、静かな表情に見えて、実は昔は相当険しい顔をしていたことがわかります。しかも、僕の主観ですが日本的な風貌だ。
仏像というのは、平安時代から運慶の出てくる鎌倉時代に至る造作は、日本色が強いと思います。しかし、飛鳥時代や天平、白鳳時代の造作は異国風によく見えるものなんです。でも、本当はそうじゃなかったのかな。
この展示には出てきていませんが、法隆寺金堂の釈迦三尊は鞍作鳥の名作と言われ、そのアルカイックスマイルから日本的でない、とよく言われます。しかし、僕はこの釈迦像を子供の頃から「岸田森に似ているな」とずっと思ってきました(笑)。案外写実的だったのかもしれません。
話がそれますが、法隆寺夢殿の秘仏救世観音。この尊顔は全く日本人に見えません。しかしながら、ごく最近、大ヒットを飛ばした歌姫である青山テルマさんの顔を見たとき、「あっ、この人救世観音にそっくりだ!」と僕は思いましたね。この人はトリニダード・トバゴのクオーターらしいのですが、奈良県出身と聞いてなんだか不思議な符合を思ったりしたもんです。
なんの話をしているのかさっぱりわかんなくなりました(汗)。僕らは法隆寺展を堪能し、涼しいのでそこを離れたくなくて、都合8回目くらいなのに常設展も隅々まで見学し、お昼過ぎにそこを出ました。興福寺と東大寺がすぐそばなのですが、そこに寄っているともうあちこちからお声がかかってまた財布がカラになるので(→
仏像が好き参照)、今回は振り切って新薬師寺と元興寺だけ寄って、ならまちブラブラして帰途につきました。
あづいあづい、ビールだビール、というわけで、鶴橋で途中下車し焼肉三昧をいたしまして(あのホルモン「空」で二人で一万円食うっていったいどういうことだ?!)、久しぶりのフリーな休日のとどめとしたわけです。どうでもいい話ばかり書きましたね(汗)。
ついこの間まで、福井でもガンダーラ美術展をやってました。後援に放送局とか新聞社とかついてたものだから、TVや新聞でPRしまくって、相当な来展者数になったようです。
で、2歳半の甥っ子も、TVや新聞で見る仏像に恐れをなして(畏れ、じゃなく恐れ)、以来、石材屋さんの前に仏像などがいくつも置いてあったりすると、「ガンガラさん」と言って怖がります(笑)。
薬壺を持たない薬師如来像、福井にあるんですよ。珍しい。
でも確かに「楽器」と似ているな(笑)。